コロナ禍以降に北朝鮮平壌に出現したカフェ、未来リザーブ

By Cafesba , 7 11月, 2026
未来リザーブ

2020年新型コロナウイルスによる国境封鎖以降、平壌で高層マンションや商業施設の建設を進めるとともに市場の統制や外部文化の統制を強め、「トンジュ」(新興富裕層)が主導権を握っていた市場(チャンマダン)を規制し、国家が主導する経済へと再編しました。

そして、コロナ禍以降のカフェや飲食店の開業はほとんどすべてが、国家主導となりました。

このような時代に開業したのが、スターバックスリザーブを模した高級カフェ未来リザーブです。

この未来リザーブが入居する「楽浪愛国金剛館」について、在日朝鮮人関係者の投資が関与した可能性があり、国連制裁や日本の法律に抵触する可能性はありますが、経営の実態はまだ十分に明らかになっておらず、違法の確証はありません。

また外部文化規制に抵触しそうな半面、北朝鮮自体がこうした西洋式の消費文化を「豊かさ」の演出として容認してもいるので、華やかなカフェ文化として営業しているようです。


コロナ禍以降は国家主導で住宅建設商業施設を拡大

2020年の新型コロナウイルスによる国境封鎖や経済制裁が続くなかでも、首都・平壌で高層マンションや商業施設などの建設を進めたことです。

さらに2024年からは、平壌だけでなく地方都市にも開発政策を拡大しています。

2021年1月、金正恩は朝鮮労働党第8回大会で、平壌に5年間で5万戸の住宅を建設する計画を打ち出しました。

この計画は2026年に最終段階の約1万戸が完成し、2月16日に完成式典を開き、翌17日に5万戸建設計画の達成を発表しました。

この開発の特徴は、単に住宅を増やすだけではなく、計画的な街づくりを進めたことです。

新しく整備された地区には、高層住宅のほか、広い道路、商業施設、住民向けの生活サービス施設なども設けられました。


コロナ化以降、市場中心だった流通構造を国家主導に

コロナ禍の2020年に北朝鮮は中ロ国境を封鎖し、政府は過去20年あまりで統制が緩んだ市場活動などの分野で再び統制を強めました。

北朝鮮はパンデミックを利用して、市場中心だった流通構造を国家主導に全面的に再編し、その過程で基盤を失った「トンジュ」(新興富裕層)の多くが没落しました。

2023年8月には「国家統制外の物資取引と外貨流通を徹底的に禁止する」という趣旨の布告が出されました。 

飲食業でも、個人の自宅食堂が直接の標的になっています。デイリーNKによると、新義州ではここ数年、公式な国営食堂は増えたものの、安くて便利な自宅食堂を好む人がなお多く、国家はそれが統制外で営業している点を問題視しています。

住民の間では、取り締まりの狙いは商業活動をすべて国家の社会主義商業システムの管理下に置くことだと受け止められています。

2026年6月にも、平安南道价川で無許可の自宅食堂の取り締まりが始まり、零細業者に登録か廃業かを迫ったと伝えられています。 

2026年の第9回党大会以降、締め付けは一段と強まっているようです。3月31日付の経済指示で、トンジュや個人の経済主体を党創建記念日の10月10日までに完全に国家統制下に置くよう命じられ、私的資本で運営されていた事業が一斉に国家に吸収されつつあると報じられています。 


コロナ禍以降のレストランの開業は、ほぼすべてが国営

コロナ禍以降のレストランの開業は、ほぼすべてが国営、または国家主導の飲食店です。

個人経営への締め付けと並行して、国が「豊かさ」を見せるために飲食店を次々に建てているという構図です。

2026年9月から10月の約6週間でプルコギ専門店が13店舗が開業し、内訳は平壌に1店と全道庁所在地に1店ずつです。

最新は10月18日の両江道恵山で、金正恩体制下で生活水準が上がっていることを示すキャンペーンの一環とされています。

最初の店は9月7日に慈江道江界で開業し、平壌の牡丹峰プルコギ店は、党創建81周年の前日にあたる10月9日に完工式を行いました。 


未来リザーブ

このような状況でニューオープンしたのが高級カフェ未来リザーブです。

平壌ではスターバックスに似た内装を持つ高級カフェ未来リザーブ、中国人訪問者のSNS投稿を通じてメニュー価格が報じられました。

店内は、木材を多用したカウンターや家具、革張りの椅子、落ち着いた間接照明、本を並べた棚やドリンクの写真、アルファベット「M」をデザインした独自ロゴ、コーヒー豆のディスプレーという特徴があります。

これらはスターバックスの高級業態「スターバックス・リザーブ」を強く意識したデザインと報じられています。

ただし、スターバックスが北朝鮮に進出したわけではありません。

スターバックス側も、北朝鮮では店舗を運営していないと説明しています。

SNS投稿から確認できるメニューは、アイスアメリカーノ、ストロベリーラテ、ミルクティー、ホイップクリームを使った冷たいドリンク、ケーキやマカロンなどです。

さらに、2025年6月12日のNK Proの調査記事では、未来リザーブのブランド名を付けた焙煎コーヒー豆が販売・展示されていることが確認されています。

単にインスタントコーヒーを提供するだけでなく、焙煎豆を商品として扱うコーヒー専門店であることが確認できます。

SNSでは価格はコーヒー3杯で25米ドルだったと報告されています。

平壌の一般住民にとって気軽に利用できる価格帯とは考えにくく、外国人や比較的所得の高い住民を想定した店である可能性があります。

世界的に人気のキャラクター「ラブブ」を使った販促も話題になりました。

店内の案内文には「ラブブ購入券を販売します。コーヒーを飲む客は1ドル、飲まない客は3ドルで購入でき、購入券100枚でラブブと交換します」と書かれていました。


楽浪愛国金剛館について

中国人留学生によると、平壌には上流層向けの「楽浪愛国金剛館」という商業施設があり、未来リザーブはその中に入っています。

ロゴはスターバックスの星の代わりに、アルファベットの「M」を変形したマークが使われています。

店内は木材と革を基調にした内装で、照明は暗めで広いテーブルが置かれており、一見すると「スターバックス リザーブ平壌店」と言われても違和感がないほどだと伝えられています。この商業施設自体も、中国人留学生の間で「北朝鮮版イケア」と呼ばれ、イケアと同じ製品名・包装のランプなどが展示されているそうです。

2025年6月12日、北朝鮮専門メディアのNK Proは、未来リザーブが入居する「楽浪愛国金剛館」について、在日朝鮮人関係者の投資が関与した可能性を指摘しました。

その根拠は主に以下の点です。

-「未来(Mirai)」という日本語由来のブランド名が使われている。

- 平壌には、以前から日本に関係する人物が運営する同じ「未来」ブランドの商業施設が存在する。

- 施設名の「愛国」は、北朝鮮の報道で在日朝鮮人による投資事業を表す際に使われることがある。

- 2025年6月には朝鮮総連の代表団がこの施設を訪問したと報じられている。
2025年6月のプレジデントオンラインが伝えた報道によると、平壌にいる留学生K氏の話として、「愛国仙内館や楽浪愛国金剛館は朝鮮総連と『KKG』の合弁事業で、在日コリアン企業のみらいが仕入れを担当していると言われている」と伝えています。

記事によると、KKGは北朝鮮にある「金剛総会社」という会社で、さまざまな事業を手がける財閥のような存在であり、朝鮮労働党の外貨獲得機関ともいわれています。

ただし、これらは状況証拠です。資金の提供者、投資金額、送金時期、経営権についての確証はありません。


日本の対北朝鮮投資の規制

実は日本には北朝鮮投資には規制があります。

2006年以降、日本が北朝鮮に対する独自制裁を強化しました

北朝鮮への独自制裁の原因は、2006年7月5日の弾道ミサイル発射と、同年10月9日の北朝鮮初の核実験です。

特に10月の核実験が決定的な契機となり、日本は北朝鮮からの輸入を全面禁止するなど、経済関係を大きく制限しました。

日本が2006年に北朝鮮への独自制裁を大幅に強化した直接の原因は、2006年7月5日の弾道ミサイル発射と、同年10月9日の北朝鮮初の核実験です。

特に10月の核実験が決定的な契機となり、日本は北朝鮮からの輸入を全面禁止するなど、経済関係を大きく制限しました

2006年以前にも、日本と北朝鮮の関係は悪化していました。

2002年9月の日朝首脳会談で金正日が日本人拉致を認め、同年10月には5人の拉致被害者が帰国しました。

しかし、残る被害者の安否や真相について日本政府が納得できる説明は得られず、日朝関係の正常化は進みませんでした。

このため、2006年の制裁強化には、核・ミサイル問題だけでなく、以前から続く拉致問題をめぐる対立も背景にありました。

2016年  日本が北朝鮮に住所などを持つ個人・団体への支払いを原則禁止しました。

2017年には国連安保理決議2375により、北朝鮮側との合弁・協力事業を原則禁止にしました。

この決議は、国連加盟国の国民などが北朝鮮の個人・団体と新規または既存の合弁事業・協力事業を行うことを原則として禁止し、例外には制裁委員会の事前承認が必要としています。


それでも在日朝鮮人が関与した商業施設が存在する理由

北朝鮮には、在日朝鮮人の資金や技術を受け入れてきた歴史があります。

例えば1980年代には、朝鮮総連系の在日商工人が北朝鮮の軽工業、農水産業、サービス業などに投資しました。

1984〜1989年には約100件の合弁事業が始まったと言われています

ただし、多くは経営上の問題などで失敗しました。

また、2000年前後には、北朝鮮当局からの要請を受け、在日朝鮮人女性が平壌の外国人向けレストランに約5,000万円を投資した事例も報じられています。

このような歴史を考慮すると、未来リザーブについては以前から存在する在日関係者の事業を拡張したか、北朝鮮国内の国家機関が資金を調達し、店舗を運営している可能性があります。

2020年以降に日本から新規出資というのは、法的規制が強く、可能性が低いかと思われます。


北朝鮮当局による規制は無いのか

北朝鮮政府が規制しているのは、主として国家の管理が及ばない民間の商業活動です。

一方、国家機関が直接運営する施設や、国家の管理下で活動する事業者による商業活動は存続しています。

したがって、仮に未来リザーブに在日朝鮮人関係者の資金が関与していたとしても、国家が管理する商業施設として営業している可能性はあります。

ただし、北朝鮮政府が営業を認めたとしても、それだけで国連制裁や日本の法律に適合するわけではありません。  

このカフェは、北朝鮮の商業活動が国家の管理下でどのように展開しているかを考えるうえで興味深い事例ですが、経営の実態はまだ十分に明らかになっていません。


外部文化を取り締まる「反動思想文化排撃法」

2020年12月に採択された「反動思想文化排撃法」が、外部文化を取り締まる主な法律です。

デイリーNKが入手した全文によれば、北朝鮮はこの法律で、反動思想文化を「傀儡」(韓国を指す)の出版物をはじめとする敵対勢力の腐った思想文化、そして「我々式」ではないあらゆる不健全で異色な思想文化と定義しています。

処罰の中心は、敵対国の映画やドラマを大量に持ち込んで広めたり、集団視聴をそそのかしたりする行為で、最高刑は死刑です。

また、韓国式の話し方や外国の携帯電話の使用も処罰の対象とされています。


未来リザーブは外部文化の規制対象とはならなかったか?

未来リザーブはスターバックス・リザーブを模したと思われますが、この規制の対象とはなっていないようです。

理由は大きく四つ考えられます。

一つ目は、スターバックスが韓国の企業ではなく米国の企業だという点です。

韓国で人気だからといって、それ自体が「韓国文化」になるわけではありません。

規制の中心は韓国のドラマ、音楽、言葉づかいなどの文化コンテンツで、コーヒーを飲むことや店の内装の様式は直接の対象ではないとみられます。

報道されているメニューも「アイスアメリカーノ」「ストロベリーラテ」といった英語表記で、韓国的な要素は確認されていません。

二つ目は、店がスターバックスの名前やロゴをそのまま使っていない点です。

ロゴは星の代わりにアルファベットの「M」を変形したマークで、「リザーブ」を表す「R」も刻まれています。

店名の「未来」は北朝鮮で一般的な言葉なので、形式上は「自前のブランド」として通せる形になっています。

三つ目は、一般住民向けではなく、国家公認の特権的な施設の中にある点です。

韓国のある論者は、北朝鮮で「愛国」と付く施設は主に朝鮮総連系の在日朝鮮人の資金で建設されたもので、外部資本との関連がありそうだと指摘しています。

そのうえで、この店はかつて外国人訪問者や平壌駐在の外交官・駐在員、総連関係者向けに運営されていた外貨商店のような施設に入っているのではないかと分析しています。

取り締まりは主に一般住民の私的な行動に向けられており、当局が認めて外貨を稼ぐ施設は別扱いと考えられます。

四つ目は、北朝鮮自体がこうした消費文化を「豊かさ」の演出として容認している点です。

局はコーヒーバーや高級商業施設、大型食堂の開業を生活水準向上の成果として打ち出しています。

西洋式の消費文化が一部の上流層を中心に広がっているという証言もあります。

ただし、法律の定義には「我々式ではない異色な思想文化」という幅広い文言が含まれているので、理屈の上では西洋風の店も問題にしようと思えばできます。

結局のところ、何を取り締まるかは当局の判断しだいで、国家の側が認めた「豊かさの象徴」は許され、住民が自発的に韓国文化をまねることは罰せられる、という選別的な運用になっていると見るのが自然でしょう。

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